東京へ神戸へ

東へと向かう新幹線の中、漱石草枕を読み終える。今頃は稲刈りの様子などを車窓から眺めることができるかと思ったが、うとうとと寝ていたのもあって、時折眼を開けると見える田んぼはすでに刈り取られた後の束だけが天を仰いでいた。久しぶりにみる揖斐川も茶畑も心地よかった。夜行バスとは違う楽しみだ。
東京での滞在は約十日。週末は五日市街道沿いにある春日神社の祭りに行き、杉並区の無形文化財にもなっている大宮前郷土芸能保存会のお囃子や里神楽を楽しんだ。保存会には親しい友人達がいて、彼らと過ごす時間も宝物だ。今年の里神楽「八雲神詠」は気持ちよかった。八岐大蛇のヒーローもので終わらない江戸前の人情が織りなす大宮前の里神楽が好きだ。祭りは金曜の夜から日曜の夜まであるが、私は日曜朝7時頃からある朝囃子(あさっぱやし)というものに惹かれる。まだ日の出の気配が残る中、木々がさわさわと揺れ、樫の実の香りが漂う境内での時間。。何せ、「あさっぱやし」ってのがたまんない。朝囃子が終わり、酒をかわしながら会長が宮前言葉で話をしてくださるのを聴くのは最高。今回は「わっしょい」は朝鮮語のcomeから来ているという話だった。この辺りは江戸中期からのコミュニティが引き続いているらしい。それから、日曜夜の演芸大会の盛り上がりは驚きだった。演芸会音響歴50年のおじいさまの歌声はかっこいいってもんじゃない!まいった。
西へ向かう新幹線の中、その日は天地が結びついたように思える朝だった。富士山は霞の向こうにありながら裾野まではっきりと姿を現し、頂上から頭は紅、裾野は翠色に見えた。赤富士を胸に帰神した。
http://bunkashisan.ne.jp/search/ViewContent.php?from=14&ContentID=311